白色花の遺伝と有色花の遺伝
C.dowiana var. aurea‘Stella’のセルフ後代の花色〜




はじめに
筆者の専門は広義的には『花卉』であるが、狭義的には『ラン科植物』である。さらにもっと専門的分野について尋ねられると、『植物バイオテクノロジー』が専門職と答えてしまう。本心はバイテクより探求心・研究魂が仕事だと思っているのだが、小生とて稼がなければならないので、小さな蘭園と培養会社を営んでいる。だからいつも専門学校や農大の教鞭ばかりをとっているわけでもなく、また某・園芸番組に出演ばかりしているわけでもなく、ラン展でランを販売しているときもあれば、世界各地からランを輸入したり、あくせくとフラスコ苗を生産しているときもある。
いまから4年前にあるフラスコ苗を生産して販売したことがあった。今回はそのフラスコ苗が開花にいたり、その花色の変化についてある一定の答えが見えてきたので、花色の遺伝に関する話を披露してみたい。その前に簡単な遺伝に関する話から解説していかなければならない。さらに「種とはなにか?」という遠大なテーマについて、今回は語っていかなければならないようだ。

ラン花遺伝学の基礎
 『花色の遺伝に関する話』の新しい情報は入っていない。そこで5年前に本誌に「紅白の花色に関する遺伝学」が解説されているものがあったので、それを引用して花色の遺伝について解説を試みたい。もちろん寺井氏から承諾は受けているので、どこまで簡単に解説できるかわからないが、とにかく話を進めていこう。

抜粋内容
〜すべては1909年英国遺伝学者であるHurst博士の研究から始まった。それは交配育種の結果からラン科植物の白花の遺伝様式を解析し推論したものであった。
 結論から言えば、『ラン科植物の白花同士の交配においても、2種類の遺伝子が両方そろったときに、紅色の花色が生じる』ということである。2種類の遺伝子とは紅色色素の前駆物質の存否を表す遺伝子“C,c”、および無色の前駆物質より紅色色素を生成する機構に関与する遺伝子“R,r”であろうと推論した。
 現在までに、様々な作物で交雑実験が繰り返されラン科以外でも同様な現象が確認されている。つまり『白花を作出しようとして、白花同士をかけ合わせたら紅花になってしまった』という現象である。スイートピーの白花同士を交雑すると、これから紹介する理論どうり、F1(雑種第1代)にはすべて紫の花を咲かせることとなる。そしてその紫花同士のかけあわせの子供(F2、雑種第2代)は紫:白=9:7の比率となるのだ。〜


 以上の内容を要約すると花色の遺伝は親に用いる遺伝子型によって「白×白=白」や「紅×紅=白」になってしまうらしい。その大きな原因として、紅花の花色を発色するためには『花色の材料』と『発色させるシステム』が揃わなくてはならないらしい。どちらか一方でも欠けてしまうと発色できずに白花となってしまうのだ。 筆者も大学在学中に、遺伝学の講義を受けていたが当時は気が短かったせいか、すぐに役立てないものだと感じていたことも否めない。しかし、実際に交配によって新品種を作出する上では、知っておいたほうがよい知識も多いので、この機会に遺伝学の簡単な基礎だけでも学んでみるのもよいであろう。
 これから解説していくに始まり、確認しておいて頂きたいことがある。それは寺井氏の寄稿文に対して論評している立場上、「・・・らしい」と表現するべきなのだが、この「・・・らしい」という表現法はわずらわしいので以後省略することにした。ご了承頂きたい。さらに寺井氏には申し訳ないが、少しでも読みやすいように筆者が普段用いる表現(言い回し)に所々変更させて頂いた。
 寺井氏の投稿文を参照しているが、この内容のオリジナルは1909年のハースト博士の論文であることを認識しておきたい。寺井氏を初め、過去様々な先生・先輩方がこの論文を翻訳されている。筆者の勉強不足だと思いたいが、ラン科植物における花色の遺伝に関する論文が非常に少ないことは事実であろう。筆者も大学の研究室にいた頃、恩師の安藤先生から、「将来、実生を作って商品を開発していくのなら、遺伝子ぐらい考えて交配をするようにしなさい」とこの論文をご指導を賜ったものである。その哲学が重要なのであろう。あくまでもこれから解説する内容は一つのモデル現象として理解するのが望ましいと思う。これらの話を理解できれば、C. ドーウィアナ オーレア・セルフ苗の花色の遺伝がわかってくるものである。

器官>組織>細胞>染色体>遺伝子とは?
 ハースト博士は『C,cは紅色色素の前駆物質』、『R,rは無色の前駆物質より色素を生成する機構』と解説されていたが、これはあくまでも1つの考え方(概念)であり、想像上の決め事であることを深く認識したい。誰も遺伝子そのものを発見して確認したわけではない。お目当ての遺伝子がどこの染色体上にあるのかわからないのだが、とりあえず遺伝子の名前をC、Rと命名しているのである。とにかくそのように考えるとうまく遺伝様式を説明できるからである。
 このように遺伝的単位としての古典的な“遺伝子”が染色体上に線上に配列され、細胞分裂を通じて娘細胞に規則的に伝達されることが理解されてきた。このような遺伝子に支配される形質の行動を法則だて体系づけたのが、『形質遺伝学』といわれるものである。

 その後1953年ワトソンとクリックによるDNAの二重らせん構造の発見は、遺伝子および染色体の構造を理解する基礎となり、遺伝子の物質的本体は塩基、糖、およびリン酸の3成分からなる核酸であり、DNAは2本のポリヌクレオチド鎖がらせん状にねじれた構造をもつことが明らかにされた。
 DNA(デオキシリボ核酸)はちょうど我々が音楽を録音するテープみたいなもので、テープの素材は糖とリン酸である。このテープに4つの文字、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)が並んでいる。これらは人間を含めた動植物、生物全てに共通した文字である。人間は30億対つまり60億個の文字でできた情報を持つ。ちなみにエイズウイルスはわずか9000個の文字情報で容易に人類を殺してしまう。ランは人間の10倍以上の文字、200〜800億対の文字を使った情報量で妖艶な花を咲かせている。塩基対の間隔は0,34nm(ナノメートル、10ー9m)なので、1細胞あたりDNA鎖の全長は27,2mと信じられないような長さになっているのである(人間の体細胞核のDNA鎖の全長は2m)。しかし塩基配列が長ければそれだけすごい生命体なのかといえば、単純にそうとは言えない。DNA鎖を無作為に切断すると、類似の塩基配列をもつ断片が多く含まれており、これらの反復配列の機能は明らかになっていない。
 その他『葉緑体DNA』や『ミトコンドリアDNA』なども存在しており、細胞質遺伝に関与していて斑入りなどの『メンデル遺伝をするもの』と『母性遺伝をするもの』もあり、機能の明確でないDNAがほとんどである。
 メンデリズムにおける遺伝子の概念は形質発現の基本的単位、つまり(1遺伝子ー1形質)とされていた。その後、酵素の役割が理解されるに伴って(1遺伝子ー1酵素)と考えられるようになった。現在では最小の遺伝情報による形成される物質はアミノ酸であることが知られている。

 以上、要約すると、植物体を構成するものは、『器官』であり、器官をバラバラにすると『組織』になり、その組織は『細胞』が集まってできている。細胞の中には『細胞核』が存在し、その細胞核の中に『染色体』がある。
 その染色体の中には27mもの長さのテープが二重らせん状に入っている。そのテープ上に遺伝情報が4つの文字で1600億文字(800億対)刻み込まれているのである。その文字がいくつか集まり、これから述べようとする遺伝子と呼んでいるものにあてはめることができる。
 ちなみに植物細胞が子孫に受け渡す遺伝情報量を我々の読む書物に換算すると、1000ページからなる百科辞典の7700冊分に相当することになる。その7700冊分の遺伝情報を各細胞の細胞核に保存されているのだから、人類がフロッピーディスクに情報を保存しているレベルなどまだまだ自然界のレベルには達していないのである。
今から始まる話は、何千何百何十何巻めかの何ページ分に相当するか分からないが、カトレヤの紅白の花色に関する遺伝様式についての章である。

ランの花色を決定する要素
 交配実験より得た知見からグループ別に分けられたいくつかのカトレヤ原種個体を下記に示した(表1)。表1中にはcc/RRとCC/rrと示されているが、これは2種の遺伝子型を表しており、Cおよびcは紅色色素の前駆物質(Chromogen、クロモゲン)を示し、Cが優性でcが劣性を示す。Rおよびrは無色のクロモゲンを有色の色素に転化する機構、すなわち前駆物質より色素を生成する機構を表し、Rが優性、rが劣性を示す。従って紅色の花色になるためにはCとRつまり前駆物質と色素生成機構の存在が同時に必要である。例えばRの遺伝子が劣性であればr、たとえCの優性遺伝子が存在しても白花になってしまうのである。この組合せが逆の場合でも同じことがいえる。つまりCの劣性遺伝子であるcが存在するだけで、Rが優性としても紅色の花色は生じないのである。


表1 2種の遺伝子型を用いたカトレヤ原種(アルバ)の分類

グループ機ccRR) グループ供CCrr)
C.gaskelliana var.alba
C.intermedia ‘Alba’
C.labiata‘Alba’
C.labiata ‘Harefield Hall’
C.loddigesii‘Alba’
C.loddigesii‘Stanley’
C.lueddemanniana‘Alba’
C.mossiae var.wageneri
C.×obrieniana‘Alba’
C.skinneri‘Alba’
C.speciosissima‘Alba’
C.trianaei‘Alba’
C.trianaei‘Broomhills’
C.trianaei‘Verdonck’s’
C.warneri‘Alba’
C.eldorado‘Alba’
C.harrisoniana var.alba
C.mendelii‘Alba’
C.percivaliana‘Alba’
C.schroederae‘Alba’
C.trianaei‘Alba’
C.warneri‘Alba’
C.warscewiczii
     ‘Firmin lambeau’


グループI内ではどの個体同士かけあわせてもすべて白花が生じ、グループII内でも同様に白色個体の実生が生まれる。しかしグループIとグループIIの間での個体の交配ではすべて紅花が生じるのである(図4)。
 ではこれらの白花同士の交配で得られた紅花同士の交配、もしくは紅花をセルフクロス(自家受粉)した場合、その体細胞遺伝子型は、『Cc/Rr』を示し、減数分裂後の生殖細胞(花粉・卵子)は、『CR』,『Cr』,『cR』,『cr』の4タイプが考えられ、受精して生まれてくるF2の遺伝子の組合せとしては、全部で16通りになる。この中で、このC-/R-のタイプをもつ組合せが9通りで紅花を咲かせる。それ以外の組合せは7通りとなり、白花を咲かせる。したがって、紅花:白花=9:7の比率となる(図4、表2)。
 しかし実際に白花の遺伝子型は5通りの異なる遺伝子型CC/rr,Cc/rr,cc/RR,cc/Rr,cc/rrが存在する。これら5つの異なる遺伝子型で白花同士を交配させても紅花が生じる。完全に白花が生じるものは、『cc/rr(劣性ホモ)』の遺伝子型をもつものに限られてくる。
 つまり現在白花の最新交配種同士かけあわせても、白花が生まれてくる保証はなんらないのである。反対に紅花の遺伝子型、CC/RR,CC/Rr,Cc/RR,Cc/Rrの4つが考えられるが、紅花と白花、紅花と紅花を交配させても頻度は違えど、紅花ばかり生まれてこない。必ず白花が混じることとなる。

コメント
これだけの品種を用いて総当たり交配を行い、このような遺伝様式を推論していることに対して、脱帽してしまう。ただただハースト博士はエライと思う。筆者としての興味は『1交配あたりの実生苗の作成数』にある。在学時代、主要作物の場合、「1交配あたり4000苗を開花させて特性調査するべき」と教わったことがあるが、生産者でない限りラン科植物ではなかなかその数量での選抜はできないものである。現在も残存している白花個体を用いて、総当たり交配を行いグループ分けしたいものである。




図4 異なる遺伝子型をもつカトレヤ原種アルバの遺伝様式


表2  F1(紅花)同士の交配(セルフィング)で
F2に白花の現れる頻度(独立遺伝を示す模式表)



白花同士から紅花を作る
 例えば従来紅花であるC.Enidは C.mossiae 'Wagneri'(ccRR)とC.gigas 'Firmin Lambeau'(CCrr)を親に持つ子であり、日本に残っているC.エニッドはセミアルバタイプの’ユナイテッドネイション’という個体であろう。後にステファンオリバー フォーレイカーやズイホーのようなセミアルバの銘花を産みだしたものだ。普通紅花をつけるのに対し、セミアルバが希少であったため重宝されてきた品種であったようだ。しかし過去にユナイテッドネイションの染色体数が60(3倍体)、80(4倍体)と報告されているので、単純に今回の「C-/R-理論」通りにはいかないのかもしれない。

白花同士から白花を作る
 一方、白花になる例もあげておこう(図3)。C.スノードンのセルフクロスやccRR型をもつ品種(原種、交配種)との交雑より生まれた子どもは、同じ遺伝子型ccRRとなり、すべて白花が生じるといわれている。その実例の1つとして、現在入手可能な白花交配種のなかで、C.プリンセスベルスがccRR型と推定できる。これらの原種構成は、C.gaskelliana var.alba, C.mossiae var.wagneri, C.trianaei var.albaの3種であり、C.Edithiae とC.Suzanne Hyeを戻し交配されたため、CCrr型の血が混じらなかったらしい。ccRR型と確信するためには、グループIIと交雑するか(先述の通り、子はすべて紅花となる)、下記の品種をセルフクロスするのがよい。子がすべて白花なら、ccRR型であろう。しかしほんの少しでもアントシアニン(緋、赤、紅、紫紅、青)の発色があるならば,疑った方がよい。



表3 ccRR型推定子孫グループ
C.Edithiae        (C.Suzanne Hye x C.trianaei var.alba)
C.Bow Bells       (C.Edithiae x C.Suzanne Hye)
C.Bob Betts (C.Bow Bells x C.mossiae var.wagneri)
C.Empress Bells (C.Bow Bells x C.Edithiae)
C.Queen Sirihit (C.Bow Bells x C.Obrieniana)
C.Little Angel (C.Obrieniana x C.loddigesii)
C.Claesiana (C.intermedia x C.loddigesii)
C.Snow Song (C.Snowdon x C.loddigesii)
C.Dick Whittngton (C.labiata x C.Bow Bells)
C.Gertrude Hausermann (C.Empress Bells x C.Bow Bells)
C.Angel Bells (C.Empress Bells x C.Little Angel)
C.Princess Bells (C.Empress Bells x C.Bob Betts)
C.Eileen White (C.Princess Bells x C.Bob Betts)
C.Hawaiian Wedding Song (C.Angel Bells x C.Claesiana)
C.Laurie Lynn Westenberger (C.Bob Betts x C.Claesiana)
 表3〜4の品種のなかには倍数体も多く含まれているため、あくまでも独断と偏見による推定であることをご了承願いたい。


表4 CCrr型推定子孫グループII
C.Dubiosa           (C.harrisoniana alba x C.trianaei alba)
C.C.G.Roebling (C.mendelii alba x C.harrisoniana alba)
C.Dupreana var.alba (C.warneri x C.warscewiczii)


 以上がランの紅白の花色を決定する要素であるが、ご理解頂けたであろうか。ccRR型の子孫は、現在本当に残っているのであろうか。ccRR型子孫だとはっきりいえるものを1軍、次にその可能性に近いものを2軍だとすると、1軍入りで現役で活躍しているものはC.Princess Bellsが挙げられる。先述の通りccRR型といってよいかも知れない。
 次に2軍落ちしているものに、C.EarlとC.Tiffin Bellsが挙げられる。C.Earlは2代前の親にあたるC.Barbara Billingsleyがはっきりしないのである。この品種は過去3回trianaei var.albaを戻し交配しているが、trianaei var.albaはI・II両グループに属するためccRR型のtrianaei var.albaを用いられていたか疑問が残る。C.Barbara Billingsleyと C.Bow Bellsの子供のなかでは、C.General Patton'Cheer'AM/JOSという個体があるが、当時(1957年)の入賞記録に「リップ展開部に紫のピンホールスポット数カ所あるがほとんど気付かない程度」と記載されているので、やはりアントシアニンの色素をもった個体なのであろう。C.Earlは3軍落ちにするべきかもしれない。
 また、C.Tiffin Bellsも同様でI・II両グループに属するC.warneriが過去2回用いられているため、疑惑のあるccRR型に近い品種といわれている。当然、C.Tiffin Bellsの親に当たるC.White BlossomやC.Cowaniae、C.Concinnity,C.Intertexta, C.Angelina, C.Bronacha, C.Mrs.Myra Peetersなどにも疑惑がかかる。
 
 現在上記の両軍入りできない怪しい品種は以下のようである。特にBc. Deesseの子孫がすべて怪しい。Bc.Deesseは、F1時代にdowianaが用いられていることや、F2時代にC.warscewiczii(CCrr型グループII)が用いられ、またB.digbyanaの血が入っているため、非常に複雑な遺伝子型をしているらしい。

表5 怪しい品種群
C. Old Whitey        (F1時代にCCrr型が用いられている)
Bc. Deesse (Bc.Ferrieres x C.Lamartine)
Bc. Mount Anderson (C.Bow bells x Bc.Deesse)
Bc. Donna Kimura (C.Princess Bells x Bc.Mt.Anderson)
Bc. Pastoral (C.Mlle.Louise Pauwels x Bc.Deesse)
Blc.Meditation (Bc.Deesse x Lc.Fedora)
Bc. Mount Hood (Bc.Deesse x C.Claris)
Bc. Trudy Baker (Bc.Mount Hood x C.Estelle)
Bc. Enchantress (Bc.Empress x C.Fabia)
Bc. Speciosa (Bc.Digdyna-mendelii x C.schroederae alba)
Bc. Sonia (B.digbyana x C.Hesta alba)


ccRR型・子孫グループ気紡阿垢襪海箸できない品種はそれらの子孫に有色花をつくる可能性が非常に高いことがいえるであろう。
 最後に要約すると、あくまでも白花に関する遺伝子座が(C、c)(R、r)2種類の遺伝子だけが関与しているということを前提条件とした場合、以下のようなる。

(1) 遺伝子型を判断するためにはグループIに属する原種とグループIIに属する原種と手持ちの白花とをかけあわせることで決定される。両グループI・IIと交雑しても子供がすべて白花が咲いた場合、その推定される遺伝子型はccrr型(劣性ホモ)である。劣性ホモをつくることは、育種戦略上、非常に重要な意味を占めてくる。その劣性ホモを用いた場合、グループI・グループIIを問わず、その子孫はすべて白花になるため、花色以外の遺伝的変異の可能性を広げることができるからである。その劣性ホモをメリクロンにかけて維持しておけば、重要な親株となるであろう(セルフによる繁殖の方がよいかもしれない。紅花を産まない親として花色遺伝様式以外の形質が分離し、変異に富んだ劣性ホモを残せるからである)。

(2)手短に判別する方法は手持ちの白花個体(原種でも交配種でもよい)をセルフクロスしてみることである。この場合、白花ばかりが咲いたとしてもグループIかグループIIに属するかは分からないが、サンダースリストをひもといて先祖を調べることにより、ある程度推定できるであろう。

 以上の理論は2倍体だけにいえることで、3倍体や、4倍体には全く通用しないことをお断りしておかなくてはならない。先述のccRR型とほぼ断定したC.Bow Bellsでさえも3倍体・4倍体の個体が選抜されているため、現在の白花個体は倍数体であることも留意しておかなければならない。
 又、アントシアニンによる花色を紅色と表現してきたのは、発色する範囲が緋、赤、紅、紫、青と広いため総称して紅色と呼んでいたのである。セミアルバの個体もすべて紅花扱いしていたのである。すなわち、少しでも花の一部にアントシアニン色素による発色があれば紅花扱いなのである。
 カトレヤの白花のリップ(喉)には黄色を呈するものが多く、当然リップ内のカロチノイド(黄色の色素)の遺伝様式が別に存在しているのかもしれない。そう考えると絶望的になる。あくまでも前向きな姿勢を貫こう。ここで全世界的にラン関係者に呼掛け、『カトレヤ純白の花を作る蘭協会』を発足し、手持ちのカトレヤ白花個体(原種からF1及び、古い品種、最新交配種まで)の総当たり交配をすればリップ内のカロチノイド色素が発色しない個体がうまれる可能性があるかもしれない。

白色花の遺伝における結論
 『劣性ホモ個体』を作り出すことが、将来にわたって親木としての意義があるのであろう。そのためには白花のセルフ繁殖を繰り返すことが重要な作業となる。ファレノプシス白花営利個体のセルフクロスを3世代繰り返して選抜すれば、劣性ホモ個体を見つけだすことも夢ではないといわれている。劣性ホモ個体選抜後のメリクロン苗生産は不要になるのだ。その個体をセルフ繁殖するだけで安定した生産を行っていけるのである。「メリクロン苗の価格が高い」と感じられている方はぜひともセルフクロスを3世代繰り返していくべきであろう。はたして劣性ホモを見つけだすことができる選抜の眼をあなたはお持ちだろうか?

有色花の遺伝
有色花の遺伝については1951年にFenton氏によって報告されている。筆者の師匠安藤敏夫博士が以前、本誌でこの論文を解説されたことがある。それはまさに今回述べようとしているC. ドーウィアナ オーレアの花色に関する報告であるので、再度内容を確認しながら筆者の見解を解説していこうと思う。
花の色は単一の色素の存在によって発現する場合(単色の花色)と、いくつかの色素の複合的な働きによって発現する場合(複色が混じり合った複雑な花色)とがある。そして、もし複数の色素がその花色に貢献しているなら、それぞれの色素の存否は独立な事柄であって、別々に遺伝すると考えてよい。このような遺伝様式を考えるのは非常に困難を要する。したがって、実際に白花となるためには単に紅色の色素が欠けるだけでなく、有色の色素はすべてあってはならないのが建て前である。前述の白花の遺伝様式は、正確にいうと、白花というより「アントシアニン色素が欠落した花」、つまり「アントシアニン系・無色花」の遺伝様式ということになる。カロチノイドが存在するためには黄色あるいは橙色であっても、クロロフィルを含むため緑色であっても、アントシアニン色素が含まれなければ、これを白花と考えて、前述した表にしたがって遺伝様式を判断できるのである。
カトレヤの白花もよく見れば、リップ内に黄色の色素がのっているものがたくさん存在するし、黄色、橙色、緑色などすべてアントシアニン色素が存在していない白花(アントシアニン系・無色花もしくはアントシアニン系色素・欠落花)に例えられるのである。
緑色にアントシアニン色素がのると、まるで絵の具を混ぜ合わせたように、緑色+赤色=茶色となり、黄色地では黄色+赤色=橙色となる。当然、赤の色素が混じっていない、黄色系統や緑色系統の花色は澄んでいて美しく感じるものである(黄色+緑色=黄緑色、美術でいう類似調和というもの)。
これから、有色花の遺伝様式を解説するが、基本的に過去の有益な情報は乏しく、誤った見解もあるかもしれない。

カトレヤのアントシアニン系有色花
今までカトレヤの白花の遺伝様式を述べる際に、白花以外をすべて紅花と表現してきた。カトレヤの代表的な花色を紅花というより「アントシアニン系有色花」と表現するのが正確である。アントシアニンには色調の異なるいくつかの種類があって、紅色を中心として、紅色にオレンジ色あるいは青色が加わったような発色に至るのである。これが複雑極まりない、カトレヤの醸し出している花色の魅力であろう。
ここで、これらのアントシアニンの種類を決定する遺伝子が分かっていれば、育種に際して極めて有用なのであるが、これは全く解析されておらず、残念ながら情報を提供できない。悲しいかな、カトレヤ大輪花の絶妙・微妙な色合いにヒトは感動しているのに、何一つ遺伝様式は分かっていないのである。
色素の濃度については、またこれを調節する別の遺伝子が介在する場合が多いのであるが、これもやはり解析されていない。また、これまで、CCRR、CCRr、CcRR、CcRrと遺伝子型が違ってもこれらをすべて紅花と表現してきた。遺伝子型が違うと若干色素の濃度が異なる場合もあるが、今のところカトレヤではそのよう事も報告されていないようである。
それでは、ドーウィアナの子孫に関する花色についての話にふれていこう。

ドーウィアナは昔ラビアータの変種であった?
Cattleya labiataの変種であるCattleya labiata var. dowiana(以下C. dowiana)は黄花の
カトレヤであるが、この花色の遺伝様式は若干調べられている(Fenton1951)。ここでぜひ皆さんにご記憶していただきたいことに、昔、ドーウィアナはラビアータの変種とされていたことである。ドーウィアナの血の中にはラビアータの血が流れているのである。
ここで読者に訊ねたい。カトレヤ・ラビアータとカトレヤ・ドーウィアナとは、どのような形質の違いによって、種(しゅ)の違いを判別しているのであろうか?父に訊ねると、「『花形』も『花色変異の幅』も『株姿』も『開花期』も『原産地』もすべて異なるではないか、だから種が違うのだ」と説教されそうだが、本当にそれだけの形質、特性だけで十分に分類されているんだろうか?と疑問をもってしまうのも否めない。何をもって種の違いを定義しているのであろうか?
植物学一般では、「交配しても雑種ができない間柄を種が異なる」と定義されているのだが、ラン科植物は特殊で、種内雑種(セルフィング・シブリングのこと)は当然、種間雑種(プライマリーのこと)のみならず、属間雑種(レリオカトレアなど)もいとも簡単にできてしまう。これはラン業界では面白い現象(商品の幅が広がっていくといった理由)ではあるが、他の業界の育種家からは、ラン科植物は分類が間違っているんではないか?との声さえあるようだ。つまり分類しすぎているんじゃないかという説である。

Cattleya labiata var. dowiana の花色の遺伝
アントシアニン系色素に関してはrrccと表現される「アントシアニン系無色花」であり、これに黄色色素が加わったものと考えられている。黄色色素の内容は知られていないので、ここでは単に黄色色素と呼んでおくが、この黄色色素の発現を司る遺伝子はYと表現される。この遺伝子はアントシアニン色素の場合とは逆に、YYやYyでは色素を生成せず、yy(劣性ホモ)になって初めて色素を生成するのである。つまり黄色花という形質は劣性である。

ここがポイント
〜ドーウィアナの黄色花の形質は劣性である〜

ここまでをまとめると、C. dowianaの遺伝子型はccrryyと表現できる。これに対して、カトレヤの野生型紅花はCCRRYYと表現され、更にこれから生じた白花はCCrrYY、ccRRYYと表現されて、いずれもYY遺伝子を含んでいることになる。したがって、これらの原種レベルの交配ではC.dowianaとの一代雑種はすべて遺伝子に関しYy(ヘテロ)であって、黄色色素は生成されない。つまり、白花と交配すればCcrrYyあるいはccRrYyで白花であるし、紅花と交配すればCcRrYyで紅花である。

ここがポイント
〜ドーウィアナのプライマリーはすべて黄色色素が生成されない*〜
〜ドーウィアナと白色花とを交配するとすべて白色花になる〜
〜ドーウィアナと紅色花とを交配するとすべて紅色花になる〜


* (筆者が行ったプライマリー育種の中でC. luteola (緑色花)との交配では、ドーウィアナを小さくしたような、ドーウィアナそっくりな黄色花が生まれているので、一概にはこの法則通りにはいかないらしい)

このように、雑種一代には、黄色花や色調の変化した個体は現れない。ところが、この雑種の自家交配(Yy XYy)からはYY、Yy、Yy、yyがそれぞれ同率生じるので、黄色色素を含むもの(YYとYy)と含まないもの(yy)が、3:1の割合で生じることとなる。この雑種が白色であれば、白花と黄花の比が3:1で現れるし、この雑種が紅花であれば、紅花とオレンジ色の花が3:1で生じることとなる。ここで初めて現れたオレンジ色は、紅花に黄色が加わったものであり、新たにオレンジ色の色素が現れたのでないことは、おわかりいただけるであろう。

ここがポイント
〜ドーウィアナの曾孫には黄色花が生まれてくる確率が高い〜

黄色色素の生成に関与する遺伝子は複雑!
実はもう少し複雑なのである。ここで現れた黄花やオレンジ色は、白花や紅花でないことは確かなのであるが、黄色やオレンジ色といっても濃淡二色が区別できるのである。これは黄色色素の生成を司る遺伝子が一つではないことを示すものである。

ドーウィアナ オーレアの遺伝子型
C.dowianaの遺伝子型をccrry1y1y2y2と表現すれば、説明できなくもない。ちなみに野生型の紅花はCCRRY1Y1Y2Y2、原種レベルの白花はCCrrY1Y1Y2Y2あるいはccRRY1Y1Y2Y2である。つまり黄色色素の生成を司る2つの独立な遺伝子をY1Y2とする。したがって、C.dowianaと野生型の紅花の雑種一代は、CcRrY1y1Y2y2となりC.dowianaと原種レベルの白花との雑種一代は、CcrrY1y1Y2y2あるいはccRrY1y1Y2y2となる。ここまでは黄色色素は登場しないのであるから、結果は単純で理解できよう。

表6 ドーウイアナ オーレアと原種レベルの白花の一代雑種(プライマリー)の
遺伝子型及びその自家交配(セルフィング)における黄色花の分離度


表6はこの一代雑種の自家交配の結果を示している。話を簡単にするために、C.dowianaと原種レベルの白花一代雑種について、その自家交配実生での花色の分離の様子が示されている。濃い黄色はy1y1y2y2となって初めて現れるのであって、y1y1あるいはy2y2 だけでは淡黄色に留まることがお分かりであろう。
もし、この一代雑種にC.dowianaを戻し交配したならばどうなるであろうか。この結果もこの表から推定できる。C.dowianaはy1y1y2y2であるから、花粉あるいは卵子のy1y2 の覧だけを見ればその結果が示されることになる。結果は、白色(Y1y1Y2y2):淡黄色(Y1y1y2y2及びy1y1Y2y2):黄色(y1y1y2y2)=1:2:1である。
C.dowianaと紅花の交配の結果を丁寧に話したら、いくらでも続けられるほど複雑となる。一代雑種までは、C.dowianaはccrr型の白花となんら変わることなく、片親が野生型紅花(CCRRY1Y1Y2Y2)であればすべて紅花(CcRrY1y1Y2y2)、cやrを含んだ園芸品種型紅花であれば、前述の方式にしたがって紅花(CcRrY1y1Y2y2)と白花(CcrrY1y1Y2y2 、ccRrY1y1Y2y2 、ccrrY1y1Y2y2)が生ずるに過ぎず、黄花は生じない。ところが、この先の交配結果は、大変複雑であって、先に述べた黄色、淡黄色のほか、紅花に黄色の乗ったオレンジ色に近いものや、紅色に淡黄色の乗った僅かにオレンジがかった紅色が生じてくる。
C、R、Y1、Y2 、の遺伝子が互いに独立であることを忘れずに努力すれば、すべての組合せを示す立派な表が必ず作れるはずである。もっとも、この4つの遺伝子が互いに独立であるということは、花粉あるいは卵子の遺伝子型で2の4乗(16)、体細胞で2の8乗(256)の遺伝子型が存在し得るということではある。ヒトの頭ではこの辺りでお手上げかもしれない。あとはコンピュータにまかせよう。


カトレヤ・ドーウイアナ オーレアを検証する
特異な美しさを誇るリップをもつ、偉大なカトレヤの原種『ドーウイアナ オーレア』
 アンデス山脈において黄色系の遺伝子を進化させた大輪系カトレヤの原種は、コスタリカでは『ドーウイアナ』、コロンビアでは『オーレア』、ペルーでは『レックス』と呼ばれている。過去、すべて『ラビアータ』の変種として扱われていた時代もあったが、現在においてこれほどの偉大な遺伝資源は存在しないといっても過言ではないだろう。『ドーウイアナ オーレア』という原種はどんなものなのだろうか?
 米国のランの権威であるウィズナー博士も提唱しているように、オーレアはドーウイアナと違って種が固定されておらず、純系が存在していないといわれている。過去の文献によると花の形質には様々なばらつきがある。博士は種の存続のための保全と素晴らしい花型を再発見するために、種子から栽培する、すなわち有性繁殖を行うことに多大な価値を秘めた種であると報告している。今世紀初頭にもこの情報が詳細に述べられていたが、残念ながら現在においても誰一人実現できていないのである。
 これからドーウイアナについて検証していこう。しかし古典的著名な文献から研究しても、こんな程度の情報量しかないことをご容赦願いたい。
 この150年間、人類はドーウイアナ オーレアのリップに魅せられて栽培を繰り返した結果、膨大な量の山採り株を枯らしてしまった。この美しさを堪能したいがため、この100年間に続々とオーレアの子供が作られてきたのである。そんな人類の努力も虚しく、やはり神々が創造したリップの再現はできなかったようである。だから今日では樹勢の強さだけを感じる交配種ではなく、妖艶な魅力に満ち溢れたリップを持つ本物のオーレアが求められている。まずは本家のドーウイアナから検証していこう。

1)コスタリカ産ドーウイアナ
 ラビアータ系の大型カトレヤで大輪花をつける。リップが大きく展開し、しかも非常に濃い紅紫色に黄金色の線が入る美しいものである。ペタル・セパルはやや鈍黄色地に紫紅色の脈が入ったり、ペタルの縁にも発色したりする。
 このような形状から品種改良上、欠くことのできない重要な原種であるといわれてきたが、サンダースリストではこのコスタリカ産の『ノーマルタイプのドーウイアナ』と次に述べる『変種のオーレア』を混同して記載してきたため、この約150年間、親木としてどちらが用いられてきたのか残っている資料を調べても、現在のところ解っていない。さらに本家本元のコスタリカでは、ノーマルタイプのドーウイアナは現在絶滅しているといわれている。つまりノーマルなドーウイアナは世界中探してもあまり見かけられないのである。

幻のローレンセアナ、奪われた命名事件
 最初に発見されたのは1850年で、有名なワーセウイッチ氏(J.Warscewicz)がコスタリカで採集し、イギリスのロー商会へ送ったが途中でたいへん傷み、開花しないで枯れてしまった。さらにライケンバッハ博士に送られたはずの乾燥標本もついにウイーンに到着しなかった。これらのうちのいずれかでも無事に到着していれば、この素晴らしいランはライケンバッハ博士によりワーセウイッチ氏の希望通り、英国の栽培家であるローレンス氏にちなんだ名前がつけられていたと思われる。
 ライケンバッハ博士はその17年後の1883年2月24日の園芸年代記に以下のように記している。
「ドーウイアナが私の手元に届かなかったために、私自身で命名する事ができなかったことは私の人生における最大なる後悔だ。」
 その後、1864年にコスタリカでアース氏(M.Arce)が再発見して、イギリスのスキンナー氏へ送り、そのうち1株がビーチ商会(Veitch & Sons)で1865年の秋に初開花した。そしてスキンナー氏の希望によりベイトマン博士が命名した。その種名はこれらの株を中米からイギリスへ運んだドウ船長(Captain J.Dow)の名を記念して、『ドーウイアナ(Dowiana)』と命名され発表された。
 第1発見者の意向であったローレンセアナではなく、ドーウイアナと命名されたのにはこのようないきさつがあったのである。

株・花の特徴
 株高は約25cmで、バルブは棍棒状で長さ12cm、直径は最大4cmのものもある。葉は長さ15〜30cm、幅4〜8cm。葉の縁にはわずかにギザが存在する。1葉をつける。
 大輪の美花を2輪から6輪つける。花径は12〜20cm。花は黄色で弁縁にピンク〜紫紅色の脈が流れ、リップは大きく開いて見事であり、濃紫紅色に黄金色の線が入る。8〜9月咲き。

原産地の気候
 コスタリカでは大西洋側に原産地が存在していたようだ。標高最高1400mまでの山地に生息し、日当たりの良い大枝に着生していた。そのほとんどが河上までせりだした高い樹に着生していたといわれている。この地域は典型的な熱帯雨林気候で、湿度は常に75〜85%と高く、光量は十分すぎるほどあるといわれてきた。年間降雨量は2000〜2500mmにも達する。雨期は5月から11月で午後から毎日雨が降り出す。平均気温は24℃を保つ。一方、乾期は12月から4月で平均気温は17℃くらいはあるようだ。原産地の自然状態では3月から5月に開花しているようである。たまに11月にも開花すると報告されている。

2)コロンビア産ドーウイアナ オーレア
 『ドーウイアナ』の自生地から1,000km以上も離れているコロンビアに『ドーウイアナ オーレア』というものがある。コロンビアの園芸家は単に『オーレア』と呼んでいるようだ。この種は現地では樹勢がノーマルタイプより元気でバルブは長大であり、花弁は純黄色1色で紅色を含まず、リップの黄金色の脈はコスタリカ産よりずっと多く鮮明で美しい。このようにあらゆる点でオーレアが勝っているため、交配親としても昔から数多く使われてきたのであろう。しかし原産地国の一般の趣味家及びラン専門業者とも、このオーレアの栽培維持は難しいものであったらしい。つまり非常に作りにくく、栽培困難なのである。現在でもその理由は解明されていない。

発見の記録
 この種は1868年にヴァリス氏(G.Wallis)がコロンビア国アンティオクイア州のフロンチーノ近くで発見し、4年後にバトラー氏が大量にコロンビアで発見した。ベルギーのリンデン博士により1881年に『C.オーレア(C.aurea)』として命名されたため、現在も原産地国の園芸家は単に『オーレア』と呼ぶ人も多いらしい。その後、ドーウイアナの変種の中の1つだろうという見解から、サンダースリストにも両者の区別はされず同じドーウイアナとして記載されることになったのである。

原産地の分布状況及び環境変異体
コロンビアにおけるオーレアの原産地もコスタリカに酷似するようである。特にカリブ海に注ぐ川岸に多くみられるようである。また西側山脈の西斜面、即ち太平洋側の海抜0〜1000m程度の湿潤なジャングルに自生しているという報告もある。コロンビアでは、このオーレアは大きく2つに分類されているようである。1つはチョコ県産出のグループで単純に『チョコ』と呼ばれ、もう一方のグループはアンティオキア県の北部ウラバ地区産のものを指し、単に『ウラバ』と呼ばれている。区別の目安は、チョコは黄色の網目のみであるのに対して、ウラバは網目が発達し、リップが極度に明るく、中にはほとんど黄色一色のものもあるといわれている。

株・花の特徴
花は2〜6輪つける。花径12〜20cm。花弁は黄色、時にはノーマルタイプのように赤紫色を帯びることもあるらしい。『オーレア』のリップに現出する網目は際立って鮮明であり、リップはビロード状でベルベット質、濃赤紫色で中央部から放射状に黄金色の筋が入り、リップの縁まで伸展していることが多い。この黄金色の網目がほとんど黄色一色にベタの状態で発展し、リップの縁がわずかに紅紫色の細い帯を残す個体もある。やはり、『オーレア』の美しさの特性はリップの黄金色の脈が流れる網目模様とセパル・ペタルの純黄色を呈したコントラストである。8〜9月咲き。

栽培方法
 栽培は比較的困難であると昔からいわれている。株分けや植え替えを行う季節は夏が最も良い。水はけのよいコンポスト、バークミックス、豊富な光量、通気、温度のバランスがほどよく保たれるとよく栽培できるようである。新芽が生長中は、適度な水やりを行えばよいのだが、シース内に蕾が見えはじめたら水を切った方がよい。開花すれば、普段通り水やりをすれば良い。休眠期は水やりを控えめにする方がよい。過去の文献では、温室内で吊り栽培の方がよいといわれている。ただし十分な温度、空気、光があるばあいに限る。
 原産地であるコロンビアの趣味家たちは、程良い長さに切ったコーヒーの木に縛り付けて栽培したり、鉢に植え込んだりしているようだが、ある期間を経過すると完成した新しい葉先に黒い斑点が生じて葉先全体が黒く変色し、下方に拡大してやがてバルブの端でポロリと落葉して枯死してしまうことが多いようだ。

自然交雑種
 C.ギガスとの自然交雑種『C.ハーディアナ(C.hardyana)』が知られている。花色は白色から紫紅色まで様々なものがあるが、現在ではほとんど見られない。リップ内の黄色の目がはっきり目立ち、ドーウイアナよりずっと栽培しやすいといわれていたが、定かではない。

カトレヤ・ドーウイアナ オーレアのセルフィングクローン苗の誕生
 今から30年前に、先代がオーレアの山採りをずいぶん輸入していたのであるが、樹勢が弱く維持するのも困難な状態であった。セルフ繁殖をするため、何度か自家受粉したのだが、タネがとれないことが多かったようである。そんな先代の困り果てた姿を何度か見ていたので、筆者なりにバイテクを駆使してどうにかできないものかと思案していたのを記憶している。
1990年代に入り筆者がハワイ大学から帰国後、このオーレアの繁殖に乗り出したのである。新芽からのクローン化は困難を要したので、結局、フラスコ苗の性状はセルフィングであったが、極少数な種子しか採れず、しかも非常に弱々しかったので、まず弱々しい苗はフラスコ内で敢えて枯死させた。さらにフラスコ内で再増殖をはかるため、幼植物体の頂端分裂組織を全て分裂させるといったクローニングを行った。つまり発芽した数個体をさらにクローンニングしたため、数個体が混じって苗が生産されていくといった通常では行わない増殖方法を行った。筆者は当時このような苗をセルフィングしてできた苗をすぐにダイレクトに再増殖したので『セルフィングクローン苗』と命名した。1997年に樹勢の強い苗が出来上がった。

C.dowiana var. aurea‘Stella’のセルフ後代の花色
昨年からぞくぞくとドーウィアナ オーレア ‘ステラ’のセルフィングクローン苗の開花が報告されている。開花例は以下の写真を参照して頂きたい。なかにはラビアータそっくりなものもでてくる。しかし明らかに開花期がラビアータとは違っていたり、何らかの異なる特性をもっているようである。遺伝学を学んでいなければ、ドーウィアナ オーレアの自家受粉はすべてオーレアタイプが生まれてくると想像してしまうのは当然であろう。これらはもともとセルフィングのものだから、前述の遺伝様式によって何が生まれてくるか分からないのである。筆者の記憶では、播種後、わずかの発芽状況だったので、数系統を再増殖してクローン化したものであるから、どのフラスコにどんな系統が含まれているかまでは把握していなかった。だから面白いのである。例え、ピンク色や紅色が開花しても、さらにセルフィングすれば、次世代にオーレアタイプが咲いてくるのだから、オーレアの遺伝子をもっているのには変わらない貴重な遺伝資源なのであろう。
結論はこうである。原種の山採り株であろうが、原種のセルフ苗であろうが、原種のシブリング苗であろうが、異種間交配のプライマリーであろうが、複雑な交配種であるモダンハイブリッドであろうが、セルフィングを続けることにより、劣性ホモが生まれ奇跡が起こるのである。

藤村茂芳の Home Pageより出典
C.dowiana var. aurea 'stella' selfing clone C.dowiana var. aurea 'stella' selfing clone

用語解説
●遺伝子座・・・染色体上で遺伝子が占める位置。遺伝子座はDNA鎖の一定の長さに相当する。一つの遺伝子座で塩基対に突然変異がおこると対立遺伝子となる。組換えは遺伝子座間のみでなく、一つの遺伝子座内でも起こる。
●前駆物質・・・代謝経路において一段階、あるいは複数の段階を経て、ある化合物になる前の化合物。
●ホモ(接合体)・・・同型接合体ともいう。着目するいくつかの遺伝子について、対立関係にある遺伝子のすべてが機能的・座位的に同一である接合体。一対立遺伝子ではAA、aa、二対立遺伝子では、AABB、AAbb、aaBB、aabbの遺伝子型をもつ個体をいう。このような状態をホモ、あるいは同型という。ホモ接合体は、自殖により異なる形質をもつ個体を原則として分離しないことから判定することができる。すべての遺伝子について同型な個体は純系であり、ホモ接合体は自殖あるいは同系交配を繰り返し、淘汰を加えることによって得られる。

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